福岡高等裁判所 昭和29年(う)1399号・昭29年(う)1392号・昭29年(う)1380号・昭29年(う)1387号・昭29年(う)1383号・昭29年(う)1385号・昭29年(う)1394号・昭29年(う)1367号・昭29年(う)1365号・昭29年(う)1372号・昭29年(う)1400号・昭29年(う)1390号・昭29年(う)1361号・昭29年(う)1396号・昭29年(う)1362号・昭29年(う)1393号・昭29年(う)1370号・昭29年(う)1378号・昭29年(う)1397号・昭29年(う)1388号・昭29年(う)1389号・昭29年(う)1363号・昭29年(う)1401号・昭29年(う)1402号・昭29年(う)1374号・昭29年(う)1366号・昭29年(う)1381号・昭29年(う)1376号・昭29年(う)1377号・昭29年(う)1386号・昭29年(う)1375号・昭29年(う)1391号・昭29年(う)1368号・昭29年(う)1384号・昭29年(う)1373号・昭29年(う)1371号・昭29年(う)1398号・昭29年(う)1364号・昭29年(う)1382号・昭29年(う)1379号・昭29年(う)1369号・昭29年(う)1395号 判決
〔抄録〕
検察官の控訴趣意第一点及び第二点の論旨について。
原判決が、爆発物取締罰則にいわゆる「爆発物」の意義に関し、要するところ、
同罰則第一条の「治安ヲ妨ケ又ハ人ノ身体財産ヲ害セントスルノ目的ヲ以テ爆発物ヲ使用シタル者及ヒ人ヲシテ之ヲ使用セシメタル者ハ云々」と言う規定の文言及びその法定刑が刑法所定の類似犯罪(例えば刑法第百十七条等)の法定刑に比較して重い点等を考慮すれば、右罰則にいわゆる「爆発物」とは極めて高度の爆発性能を有し爆発自体による直接の効果として社会公共の平和を攪乱し又は不特定多数人の身体財産に対し甚大な被害を与えるに足る能力を有すると認められる物件のみを指称し、同じく爆発性能を有していても、それが右の程度に達しないと認められる物件は、右罰則にいわゆる「爆発物」には該当しないと解するのが相当である。
との解釈を採り、右見解に立脚して、後で詳述する様な性能を有する本件ラムネ弾は未だ以て社会公共の平和を攪乱し人の身体財産に対し甚大な被害を与えるに足る破壊力を有しないものと為し、従つてそれは右罰則にいわゆる「爆発物」に該当しないものと判定していることは、所論のとおりである。
そこで、先ず右法令解釈の当否につき考究し、次に進んで本件事実に対する法令適用の問題につき検討することにしよう。
凡そ刑罰法規が、一定の行為を処罰することにより社会生活における平和と秩序とを維持することを目的として制定された社会的規範たる性質を有するものである以上、それに関する解釈も右法規の目的性質に照らして自らなる方向を与えられ特有の色彩傾向を帯びるものであることは、固より当然の所であり、従つて刑罰法規における用語の意義が自然科学又は社会科学の他の部門或は他の法域における同一用語の意義と必らずしもその分界において完全に一致すべきものと限らないことも、殆んど自明の理に属すると言うことができる。と共に、他面、かかる刑罰法規の解釈を為すに際つては、飽迄も各規定の文言に客観的に表明されている法意にできる限り忠実に従うべきものであつて、上叙刑罰法規の目的性質による解釈の立場以上に踏み出し濫りに主観的評価を挿んで制限的解釈を加えたり或は拡張的解釈を施したりする様なことは、厳に之を慎しまねばならない。
ところで、爆発物取締罰則第一条は「治安ヲ妨ケ又ハ人ノ身体財産ヲ害セントスルノ目的ヲ以テ爆発物ヲ使用シタル者及ヒ人ヲシテ之ヲ使用セシメタル者ハ云々」と規定している。而して、右にいわゆる「爆発物」の概念は、本来自然科学に属する理化学上の爆発現象或は爆発物の概念を基礎として、採り容れられたものと解されるので、先ず理化学的概念としての「爆発」とは如何なる現象を指称するかについて考察することにする。尤も、理化学上においても、各種爆発現象の進行過程が必らずしも詳らかに解明されて居らず、従つて未だ厳密な意味におけるその科学的定義は確立されていないものの様であるが、何れも記録第四十八冊に編綴されている原審鑑定人谷厳作成の鑑定書・倉田明に対する爆発物取締罰則違反被告事件の第七回公判調書謄本中証人二神哲五郎の供述記載部分・同人作成の鑑定書謄本・金昌変外一名に対する放火未遂等被告事件における鑑定人塚本久雄作成の鑑定書謄本・尹正根外三名に対する爆発物取締罰則違反被疑事件における山本祐徳作成の鑑定書謄本・後藤昭三に対する同罰則違反被疑事件における山本祐徳作成の鑑定書謄本・鄭碩述外十三名に対する加重逃走等被告事件における鑑定人伏崎彌三郎作成の鑑定書謄本の各記載を綜合すれば、概ね次の様に言うことができよう。即ち、理化学上の「爆発」と言う概念には広狭二義があり、広義においては「或る物体系が急激迅速に増大する現象」を、狭義においては「或る物質の分解又は化合が極めて急速に進行しその際一時に多量の熱と瓦斯を発生しその体積が急激迅速に増大する現象」を各指称し、かかる現象を惹起し得るように調合装置された物件を「爆発物」と指称するのであつて、右広狭二義の相異は、後者が殆んどすべての化学反応に伴いつつ惹起される(以下単に化学的爆発と称する)のに対し、前者は必らずしも化学反応に伴わず単なる物理的な原因による体積急増の場合(以下単に物理的爆発と称する)をも包含すると解されるが、結局理化学上の「爆発」と言う概念の一般共通的な構成要素は「或る物体系の体積急増」と言う点に存するものと言うことができる。そこで、前記罰則にいわゆる「爆発物」の意義を解釈するに際つても、右理化学上の一般共通的な意義即ち広義における「爆発」の概念に従うべきものと考える。然らば、右の様な意義における理化学上の爆発現象を惹起し得るように調合装置された物件はすべて右罰則にいわゆる「爆発物」に該当するかと言うと、必らずしもそうではなく、前に述べた様な刑罰法規の目的性質及び同罰則第一条が「治安ヲ妨ケ又ハ人ノ身体財産ヲ害セントスルノ目的ヲ以テ云々」と規定している点等に鑑み、同罰則にいわゆる「爆発物」とは、右理化学上の爆発を惹起し得べき物件の内で、爆発作用そのものにより治安を妨げ又は人の身体若しくは財産を害するに足るものとして社会通念上危害を感ぜしめる程度の性能を有するものを指称すると解するのが相当であり、ここに至つて始めてそれは刑罰法規上の概念として成立するわけである。
斯様な見解に立てば、たとえ前記の様な理化学上の爆発を惹起し得べき物件であつても、いわゆる玩具の花火や癇癪玉或はマツチ等の如く、之によつて惹起される爆発現象そのものが極めて零細軽微であり従つて前述の様な治安を妨げ又は人の身体若しくは財産を害するものとして社会通念上危害を感ぜしめる程度に達しないものは、前記罰則にいわゆる「爆発物」に該当しないものと解される、と同時に、他面、かかる理化学上の爆発を惹起し得べき物件であり且苟くも之が爆発作用そのものにより治安を妨げ又は人の身体若しくは財産を害するものとして社会通念上危害を感ぜしめる程度の性能を有するものであるならば、右罰則にいわゆる「爆発物」に該当するものと解すべく、更に進んで原判決の提る如くその爆発性能が極めて高度であると唱すか或は不特定多数人の身体財産に対し大な被害甚を与えるに足る能力を有すると言う様な加重要件は之を必要としないものと言わねばならない。原判決の提唱する「極めて高度の爆発性能」とか或は「甚大な被害」と言う様なことは法令解釈の基準としては不明確に過ぎるものであり、又右罰則第一条にいわゆる「人」を右の様に「不特定多数人」と解することも条文上の根拠に乏しく、寧ろ右にいわゆる「人」は刑法第百九十九条「人ヲ殺シタル者ハ云々」或は同法第二百四条「人ノ身体ヲ傷害シタル者ハ云々」の各「人」と同様に特定若しくは単数の人であつてもよく、更に「財産」に関する場合には法人であつても妨げないものと解するのが相当である。現に、いわゆる「火焔瓶」に関する昭和二十八年十一月十三日最高裁判所第二小法廷言渡の判決も「爆発物取締罰則にいわゆる爆発物とは、理化学上のいわゆる爆発現象を惹起するような不安定な平衡状態において薬品その他の資料が結合せる物体であつて、その爆発作用そのものによつて公共の安全を攪乱し又は人の身体財産を傷害損壊するに足る破壊力を有するものをいうと解すべきである」旨判示し、当該事件に対する第二審判決或は本件に対する原判決が夫々提唱している様な加重要件を掲げることを避けているのであつて、結局、原判決の前記解釈は聊か制限的方向に行き過ぎた憾がある様に思われる。
尤も、(一)前記罰則第一条は法定刑として死刑又は無期若しくは七年以上の懲役又は禁錮を規定して居り、類似の犯罪に関する刑法第百十七条第一項前段の法定刑が死刑又は無期若しくは五年以上の懲役となつているのに対し、その刑がやや重いものの様に見え、又(二)同罰則第三条の法定刑が三年以上十年以下の懲役又は禁錮となつていて、いわば類似の犯罪に関する刑法第百十三条或は同法第二百一条の各法定刑が二年以下の懲役となつているのに対し著しく重く、更に(三)同罰則第九条の法定刑が十年以下の懲役又は禁錮となつていて、類似の犯罪に関する刑法第百三条或は同法第百四条の各法定刑が二年以下の懲役又は二百円以下の罰金となつているのに対し之亦著しく重くなつていることは、延いて右罰則にいわゆる爆発物の意義を原判決の様に高度の爆発性能を有し、或は不特定多数人の身体財産に対し甚大な被害を与えるに足る能力を有する物件のみを指称する趣旨に解すべきものではあるまいかとの疑念を生ぜしめるかも知れない。併し、這般の事情を順次検討するのに、先ず(一)右罰則第一条の法定刑と刑法第百十七条第一項前段の法定刑との軽重を法律的に考察すれば、刑法第九条、第十条或は刑法施行法第三条第三項等の法意に照らし、両者の間に軽重はない(或は禁錮刑を包含する前者の方が後者より却つて軽い)ことになり、従つて後者より前者を重しと為す原判決の論拠そのものが既に法令に定められた刑の軽重比照の準則に悖る非法律的な謬見であると認められるのみならず、仮に後者より前者を重しと為す見解が成立するとしても、それは前者が「治安ヲ妨ケ又ハ人ノ身体財産ヲ害セントスルノ目的」と言う特別の主観的要件を具えているのに対し後者は必らずしもかかる特別の主観的要件を具えていなくてもよいこと等に因るものとして、之を理由附けることも不可能ではない。次に、(二)同罰則第三条の法定刑が刑法第百十三条或は第二百一条の各法定刑に比して著しく重くなつている点は、前者が爆発物と言う――(その威力が瞬時に発生し且その威力の作用する方向乃至範囲も不特定或は包括的であつて通常人の動作を以てしては容易に阻止或は退避することができぬ様な)――特殊な危険手段に関するものであり、而も後者と斉しく予備行為の範疇に属するとは言え、後者の如く予備行為一切を包含するものではなく、「爆発物若クハ其使用ニ供ス可キ器具ヲ製造輸入所持シ又ハ注文ヲ為シ」と言う特定の形態を具えた予備行為に限つて規定したものであること等に鑑み、両者の法定刑の懸隔がしかく大きいことの当否は暫らく別として一応その理由を存するものと言うことができよう。更に、(三)同罰則第九条の法定刑が刑法第百三条第百四条の各法定刑に比し著しく重い点も、前者が前述の様な特別の主観的要件を以て爆発物と言う特殊の危険手段による罪を犯した者或はその証拠に関する特別規定であるのに対し、後者は概してより法定刑の軽い刑法各本条の罪を犯した者或はその証拠に関し抽象的に規定した一般法であること等に鑑み、之亦両者の懸隔がしかく大きいことの当否は暫らく措き一応その理由を見出すことができよう。のみならず、飜つて右(二)(三)において比較の基準とされた前記現行刑法の諸法条に盛られている各法定刑そのものが軽きに失する憾がありはしないかと言う点についても検討を要する余地が存するものと考えられるところ、昭和十五年三月十九日刑法並監獄法改正調査委員会から発表されたいわゆる「刑法改正仮案」は、現行刑法の右諸法条即ち第百十三条或は第二百一条又は第百三条或は第百四条に順次相応する同案第二百六十四条(五年以下の懲役)或は第三百四十一条第一項(七年以下の懲役)又は第二百二十二条第一項(五年以下の懲役又は千円以下の罰金)或は第二百二十六条第一項(五年以下の懲役又は千円以下の罰金)において、夫々括孤内に示したとおり各その法定刑を引き上げているのである。又他方現行爆発物取締罰則の法定刑が聊か重きに失する面を有することも見逃し難い所であつて、前記「刑法改正仮案」は、右罰則をその中に摂り入れ、同罰則第三条等に相応する同案第二百五十条(六月以上七年以下の懲役又は禁錮)において放火の予備通謀に関する前記第二百六十四条或は殺人の予備通謀に関する前記第三百四十一条第一項の各刑に近接する(或はそれよりも却つて軽くなる)ようにその法定刑を引き上げ、尚犯人蔵匿罪証湮滅の罪については、爆発物に関する罪について特別の規定を設けず、前記第二百二十二条第一項及び第二百二十六条第一項の一般規定の中に解消させて了つている。斯くして、右「刑法改正仮案」においては、爆発物に関する罪の法定刑と他の類似犯罪の法定刑との軽重が或は現行法の場合に比し近接し或は全く同一に帰しているわけであるが、だからと言つて、右「刑法改正仮案」の様な法制の下における「爆発物」の意義を現行法の場合に比し緩やかに解釈してよいと言う筋合のものとも考えられない。斯様に観察して来ると、既にその妥当性につき検討の余地を存する現行刑法における前記各条の法定刑を絶対的な基準とし、それとの比較において爆発物取締罰則の法定刑が重いことを論拠として、同罰則にいわゆる「爆発物」の意義を原判決の如く色々制限的に解釈することは、全く謂れのない論法と言うべく、従つて前記の様な疑念も自ら消失するに至るであろう。
それにしても、尚最後に払拭しきれない疑念として残るのは、前記罰則各条所定の法定刑が、前記刑法各条との比較を離れそれ自体につき観察しても、今日行われている量刑基準乃至量刑通念とも称すべきもの(之等は必らずしも客観的に明確であるとは言い難いが、大勢の自ら帰一する所は存するであろう)に照らして重きに過ぎるのではないかと言う点であつて、延いて同罰則にいわゆる「爆発物」の意義も右法定刑が重いことにふさわしく極めて高度或は相当の性能を有するものに限定して解釈すべきではないかとの考え方も生じて来るわけである。併し、それでは右法定刑にふさわしいものとして如何なる程度以上の性能を有するものでなければならないか、その基準を客観的(敢えて数学的であること迄は要しないにしても)に示すことは、恐らく至難の業に属するのみならず、そもそもある犯罪に対し如何なる法定刑を盛るのが妥当であるかの問題は本来立法者の権限と責任とにおいて決すべき事柄であつて、司法の任に当る裁判所においてかかる問題にまで立ち入つて詮議し更にその当否に関する評価を根拠にして法令の解釈をまで左右する様なことはその所を得ないものと言うべく、裁判所としてはせいぜい具体的事案の処理に際り、その権限と責任とに委ねられている法律上の減軽乃至酌量減軽等を行うことにより量刑の妥当を期する程度で甘んずるの外はないものと考えられるので、前記罰則各条の法定刑がそれ自体重きに過ぎるのではないかとの疑念は尚依然として存しつつも、そのことの故に同罰則にいわゆる「爆発物」の意義を不明確な基準により制限的に解釈することは、当裁判所の採らない所である。
以上諸方面から観察した所を綜合すれば、結局、前記罰則にいわゆる「爆発物」とは、理化学上のいわゆる爆発現象を惹起し得るように調合装置された物件であり、且之が爆発作用そのものによつて治安を妨げ又は人の身体若しくは財産を害するに足るものによつてとして社会通念上危害を感ぜしめる程度の性能を有するものを汎称し、さらに進んで原判決の言う様にその爆発性能が極めて高度であり又は不特定多数人の身体財産に対し甚大な被害を与えるに足ることを要しないものと解するのが相当であつて、原判決は同罰則にいわゆる「爆発物」の意義を誤解しているものと言う外はない。
而して、右の様な見解に立脚しつつ、本件におけるいわゆる「ラムネ弾」の事実上の性能について調査するのに、原審押収にかかるラムネ瓶一本(証第四号)及びラムネ瓶破片約二本分(同第九号)ラムネ瓶破片五個(同第十二号)ラムネ瓶破片若干(同第十三号)ラムネ瓶破片五十三個(同第十四号)並びに原審鑑定人谷厳作成にかかる昭和二十八年五月二十四日附鑑定書(記録第四十八冊)の記載に徴すれば、右押収にかかる証第四号のラムネ瓶中にはカーバイト三十四瓦位が詰められて居り又証第九号、第十二号乃至第十四号(右鑑定書に六号、八号、十一号、十二号とあるのは、記録第四十冊中原審第二回公判調書添附の領置目録と対照し、同第四十四冊中原審第十四回公判調書における誤記を右鑑定人においてそのまま受け継いだものであつて、夫々本文の第十三号、第九号、第十二号、第十四号に該当するものと解する)の各ラムネ破片の内側には水酸化カルシウム即ち消石灰が附着していることが認められるから、原判示第三(被告人鄭在湖、同金晩昌の関係では第二)の犯行において使用された俗称ラムネ弾(被告人金基昊等に対する原判決原本中原判示第三の事実摘示に不明の部分が存することは既述の通りであるが、その第十七枚目裏の(イ)の部分及び同判決末段爆発物取締罰則違反の罪の成否に関する判断の部分等を綜合し、原判決が少くとも原判示第三の(イ)の犯行にラムネ弾が使用された旨判示していることを窺うことができる)は各ラムネ瓶に概そ三十瓦宛のカーバイトを詰め之に水を注入すると言う構造を有していたものであることを推認することができる。ところで、右谷厳作成の鑑定書並びに前記山本祐徳作成の鑑定書謄本及び前記塚元久雄の鑑定書謄本の各記載を綜合すれば、一般に斯の種ラムネ弾を使用するには右の如くカーバイトを詰めたラムネ瓶に水を数十瓦注入し之を傾斜或は倒立させて直ちに投ずるという方法によるのであるが、かかる操作により惹起される現象は、カーバイトと水の反応により急激多量にアセチレンガスを発生し且その反応熱等により右ガスの膨脹を伴い、一方前記傾斜等の際瓶内のラムネ玉が瓶の口を密閉するので、瓶内で噴出を続けるガスの圧力が急速に高まり、遂に容器である瓶の外壁を破つて急激にその体積を増大し、之がため瓶の破片を飛散させると言う現象であつて、右経過におけるカーバイトと水の反応によるアセチレンガスの発生は化学反応であるけれども、右ガスの発生経過そのものは爆発ではなく、右の様に発生したアセチレンガスが密閉された瓶内で急速に充満増加するため高圧を生じ、それが瓶の耐圧限界を超え前記の如く之を破裂させるに至る現象は即ち一種の物理的爆発に属するものと目されるので、本件ラムネ弾は理化学上いわゆる爆発現象を惹起し得るように調合装置された物件に該当するものと言うことができる。そこで、その性能威力の程度について検討するのに、前掲各証拠物件及び(1)前記鑑定人谷厳作成の鑑定書(2)鑑定人塚元久雄作成の鑑定書謄本並びに(3)当裁判所の検証調書(但し昭和二十九年十二月六日検証の分)(4)当審鑑定人塚元久雄同谷厳連名作成の鑑定書(5)原裁判所の昭和二十七年十月二十七日の検証調書、原裁判所の証人河合ことに対する尋問調書、検察官の金応方に対する検証調書の各記載(尚(6)前記証人二神哲五郎の供述記載部分(7)同人作成の鑑定書謄本参照)によれば、原判示第三の犯行に用いられたと推認されるラムネ弾即ちラムネ瓶にカーバイト約三十四瓦前後を詰め数十瓦の水を注入したものが之を傾斜或は倒立させた後五秒乃至十数秒にして爆発する際には、多数(場合によつては百数十個)のガラス破片を最大距離五十米位最高度五米乃至七米位に及ぶ四囲に飛散させるが、その身体若しくは財産に対する損傷能力は、各場合により、(1)爆心より一米以内であれば露出の皮膚にはかなりの被害を与え眼は失明し或はけい動脈等を切断すれば生命の危険も考えられ、又爆心より一米附近においては厚さ三分の杉板を貫通するに至らず、距離三米附近においては厚さ二粍のボール紙を破る程度であり、(2)爆心部附近においてはボール紙数ヶ所を貫通破壊し或は木箱(横四十二糎縦三十糎深さ三十糎)に最大三糎最少七粍の損傷を与え或は木箱の内部に貼られた西洋紙を数多の箇所で損傷し、(3)爆心部においては円形のアルマイト製漏斗を変形させて略々楕円形と為し、その外面には数ヶ所の凹みを生ぜしめ更にその外側上部の個所を瓶の破片が貫通し、(4)爆心より半径五米内外においては人体の危険が予想され、又それ以上の距離においても必らずしも安全を保し難く、さらに(5)本件の金応方屋内に投入されたラムネ弾一個は同家二階六畳の間の押入の襖をつき破り同押入の中で爆発し、その破片が又襖を破つて押入外に飛び出し隣室まで飛び散つていること等が認められる(尚(6)(7)カーバイト十八瓦を詰め水三十立方糎を注入したラムネ弾の場合、ラムネ弾から約十糎離れた距離に窓硝子、サラシ木綿、牛皮、鉛板、木材があると窓硝子はめちやめちやに破損し、サラシ木綿は所々に切つた様に口が開き多くはラムネ瓶の破片が通過した形跡を示し、革皮も切れて破片が通過し、鉛板には深さ約二分の一粍程度に破片が突きささり、木材も所々に深さ約二分の一粍の損傷を受け、更に偶々実験中約五米の距離に居た実験補助者の足に硝子の破片が当り、而も割れ口でない所が当つたと想像されるにも拘らず、洋服及び靴下を通して皮下出血を起こした事実があり、五米乃至十米位の範囲であれば人体を傷つけ五米より近くであれば治療を要する程度の傷を与え、又その爆音は屋外では五、六十米以内屋内では三十米以内に居る人を驚かしめるに足るものと認められること参照、因みに前記(6)の鑑定書によればラムネ弾の場合カーバイト十八瓦に水三十立方糎を混和するが最適量とされている)。以上は、恐らくカーバイトの純度形状・カーバイトと水の混和量・ラムネ瓶の硬度形状容量・又は外部の気温気圧湿度風速或は破砕された瓶破片の形状飛散の方向或は対象物の性質形状位置等の相関的関係その他の諸条件如何により、各場合々々に応じ多少の相異を呈しているものと考えられるが、之を要するところ、本件ラムネ弾は、その爆発に際し多数のガラス破片を四囲に飛散させ、右爆発作用そのものにより身体若しくは財産を損傷し、又人の身体財産を直探損傷しなくても本件の如く(原判示第三の(イ)では三個とされている)之を数個以上同時に或は接続して併用するときはその爆音と共に附近人心に不安脅威の念を生ぜしめ延いて社会の平安を害するに足るものとして、社会通念上危害を感ぜしめる程度の性能を有するものと認めるべく、仍ち右は前記罰則にいわゆる「爆発物」に該当するものと目するのが相当であつて、原判決が之を右「爆発物」に該当しないものと為し被告人金基昊外六名が之を使用したとの訴因を罪にならないものと判断したのは、結局前に指摘した様な法令の誤解によりその適用を誤つたものと言わねばならない。
然らば、結局、原判決は右の点に関する限り判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤に陥つているものと言うべく、右論旨は理由があるので、原判決中被告人金基昊、同梁在義、同李起栄、同張白樹、同李金水、同鄭在湖、同金晩昌に関する部分は、刑事訴訟法第三百九十七条に則り破棄を免れない。
≪省略≫
(裁判長裁判官 高原太郎 裁判官 大曲壯次郎 裁判官 吉田信孝)